忘れてしまっていい

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忘れてしまっていい

diploma × Kyoto ’16 エッセイ

底に流れるリノベーション
diploma×KYOTOの2日目のを審査を終えて、もう随分と前から感じていましたが、リノベーションが建築学生の底に流れる共通の概念なのだと感じました。審査中はそんなことは思いもよらず、リノベーションが並ぶ中で果敢に新しい建築にチャレンジしている作品をファイナリストに残そうと、短い時間で必死に新しさの断片を探そうとしていました。しかし、今しばらく時間が経って、やや的外れだったかと思っています。つまりもはやリノベーションは新築のカウンターの概念ではなくなってきたのではないかと思うのです。

研究室にて
自分の話をします。できるだけ格好をつけず、素直に書こうと思います。多くの人にとって卒業設計を思い出すことは、ちょっとした「恥ずかしさ」や「甘酸っぱさ」を思い出すことになると思います。例に洩れず、私にとっても、こっぱずかしい人生の1ページです。卒業設計で考えたことを自慢げに語ることはとても難しい。
私が卒業設計を提出した2003年は、ちょうど「団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ・みかんぐみ著」や「リノベーション・スタディーズー第三の方法・五十嵐太郎編著」が出版された直後でした。当時、私が所属していた建築デザイン研究室では大きく2つのチームに分かれて研究をしていました。1つは「コンバージョン・リノベーションゼミ」。今あるストックに対するリノベーションや転用の方法を、建築デザインの視点から提案するゼミです。もう1つは「サステイナブルゼミ」。建築を新たにつくる際の省エネルギー技術を研究し、提案を試みていました。改修と新築、両面から持続可能な建築にアプローチするような体制がとられていました。空間やディテール、美しさではなく、建築デザインが直接地球と繋がるような感覚を覚え、必死に研究していました。

はずかしい卒業設計
そんな中で卒業設計に取り組みました。私の卒業設計は言わば「橋のコンバージョン」。大阪に架かる巨大な橋にさらに巨大な建築物をダブルスキンのように増築し、橋を取り込んだ巨大な省エネビルをつくるというような提案をしました。しかし時代の風向きは「ささやかなリノベーション」。巨大な橋をさらに巨大化させるとは何事か、と批判があったのを鮮明に記憶しています。今年で14回目を迎える仙台の卒業設計日本一決定戦ですが、私が卒業設計を提出した2003年は、記念すべき第1回でした。意気込んで応募しましたが、1次予選を突破するも2次で敗れ、ファイナリストに残れませんでした。
今思えばサステイナブルデザインを心の底から「面白がる」ことができていなかったのだと思います。考えなければならない、研究したいテーマではあったのだけれど、「面白くてしょうがない」テーマと思えていなかった。今でも卒業設計を思い出すのが恥ずかしいのは、そんなところに理由があると思います。

大学院を卒業後、設計事務所でひたすらに新築しました。ここはもう何も考えられず、とにかく必死でした。その後、独立して、ゼロからスタート。本当に考えたい、つくりたい建築、自分がおもしろいと思える建築を考えよう。もちろん卒業設計のことなどすっかり忘れて。

ひょっこり顔を出す卒業設計
今、独立して3年目。小さな住宅を設計しています。クライアントは私と同世代の4人家族です。二人の子供たちにとってこの家が幼少期の多くの記憶の器になるだけでなく、ずっと住み続けるかもしれないと考えると、自然とどうやったら住宅が永く使えるか、いかにリノベーション可能な建築を新築するか、などを考え始めました。そこでふと、卒業設計で考えていたリノベーションと新築をあらかじめハイブリッドするような建築を無意識のうちに考えていることに気づきました。と同時に僕の卒業設計が、ささやかではない批判的な改修と無自覚ではない新築をハイブリッドして同時に提案したいと思っていたことに14年を経て気づきました。心の底からは面白がれなかった、でも1年かけて取り組んだテーマに、別のルートからリアリティを携えてたどり着いたような気がして、とても嬉しかった。

忘れてしまっていい
よく卒業設計はその後の建築の人生で考え続けるテーマになる、と言われます。僕自身の経験でもその通りだと思うのですが、やや言葉足らずだと思います。つまり、設計を続けていると、望む望まざるに関わらず、卒業設計はひょっこり顔を出す。なので、はずかしい卒業設計は一回忘れてしまっていい。その方が気が楽だし、楽しく設計できます。そしてこれから卒業設計に取り組む人に言いたいこと。「思いつめる必要はない」。楽しく取り組んでください。

(山口陽登)

忘れてしまっていい

Tied Debate 05 「定住と移動ー建築は動くかー」

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