DIYを支えるホームセンターの可能性

DIYを支えるホームセンターの可能性

DIYを支えるホームセンターの可能性

大阪保険医雑誌 2015年4月号

大阪の上本町で建築家として設計事務所を営んでいます。家や別荘、店舗やワンルームマンションなどを設計しているのですが、どうも学生時代からの癖で、依頼が来ていないのに勝手にいろんな建物を頭の中で設計してしまいます。最近気になっているのは「自分で作る、自分で直す」という考え方のDIY(Do It Yourselfの略)と、それを支えているホームセンターの計画です。
DIYと言えば、アメリカのイメージが強いのですが、意外にも出自はヨーロッパにあります。1945年、空襲を受けたロンドンの街を自分たちの手で復興させる運動として、「DIY」=「Do it yourself」というスローガンが生まれ、イギリス中を席巻、その後アメリカへDIYという言葉が広まり、趣味として楽しむ「DIY」に変化したと言われています。DIYは1970年代初頭に日本にも上陸し、瞬く間に広がりました。当初は住宅の補修作業や簡単な家具の製作などを指していましたが、今では、「人に頼らず自分でつくること」全般を指し、冷蔵庫やキッチンにカッティングシートを張ってインテリアの印象を変えることから、ケータイのケースのカスタマイズまで、広くDIYという言葉でまとめられています。

しかし、「自前」という概念は、DIYという言葉が生まれる遥か前から存在しました。それどころか、農村を含むいわゆる田舎では、いまでも、なるべく既製品を買わないという風潮がある。そもそも道具や家は「買う」のではなく、「受け継ぐ」ものだったのです。それが戦後の高度経済成長を経て、人々は都市や郊外に住まいを求め、モノを直す、つくる、というよりも新しい技術でつくられた既製品を買う方向へ向かってきました。そうして失われた「自前」の概念は、DIYという新たな言葉とともにもう一度私たち生活者に近い概念になってきました。

近年の都市への人口集中で、スペースがなく、モノをストックすることができない中、DIYを支えているのは言うまでもなくホームセンターです。ほとんどのDIYはホームセンターに行って材料をそろえることから始まっていると言っても過言ではありません。家電や文具のように出来あがった既製品からネジの一本まで、様々なモノが一つの建物の中にパッケージされるというホームセンターのカタチは今日まで大きく変わることなく続いています。

さて、では多くの人たちが行っているDIYはどのようなものでしょうか。例えば、プロの大工が日曜大工としてつくるテーブルと、素人のそれでは質に大きな差があります。差があるのに、素人の上達は個人個人の日々の研鑽に委ねられていて、技術や経験を交差させるような場はありません。1.家で考える→2.ホームセンターで材料を買う→3.家でつくるという、とてもクローズドなDIYなのです。日々生み出される莫大な量の個人の小さなDIYが、誰かのためのフィードバックになることがないという今の状況をなんとかできないか。散歩がてら材料を眺めたり、大きな広場で食器棚を組み立てることができたり、少し専門的な例えばスピーカーのようなものを人に教えてもらいながら自分でつくることができるホームセンター。材料調達だけでなく、組み立て、加工、仕上げまで全部行えるホームセンターで、他人のDIYを見たり見られたりすることができれば、DIYはもっとオープンになるような気がしています。

(山口陽登)

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なるほどと思える新しさ

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