
街と浸透しあうスタンド
九州最大級の70タップを誇る、クラフトビールの立ち飲みスタンド。博多の繁華街の一角に建つオフィスビルの1Fである。カフェのように落ち着いて読書やコーヒーを楽しむのではなく、また居酒屋のようにどっしりと座り仲間と語り合うのでもない、店先で長居せずお酒を飲む場所である。その意味で立ち飲みスタンドは、道や公園や広場のような、いわゆる公共空間により近い商店であるように思えた。街と一体化し絡まり合う、公共空間としてのスタンド。街の喧騒が染み込み、また人や光が街にじんわりと染み出すような、境界空間のあり方を考えられないか。
柱・梁は外壁からインセットされ、上階では水平連続窓が実現されている。改修前の1F店舗も、上階からそのファサードが延長され、西側には水平連続窓、アクセスは北側の道路のみに限定されていた。西側、北側ともに全面ポリカーボネートの厚みのない建具として、できる限り幅広く道と接するようにした。それらが全て外壁に引き込まれ、全面的に開き、ビールタップをフレーミングする。道路から客席までの高低差は、内外を跨ぐように大きなステップで繋いだ。北側から西側へできた通り抜けの途中に、止まり木のカウンターやベンチといった小さな居場所を散りばめている。高さ2.1mまでの空間は木仕上げとして居場所を設えたが、それ以外の壁や天井はシルバーペイントで、昼間は外からの光を乱反射させて内部に取り込み、また夜は内部の照明を外部に届けて街に明かりを灯す。
引き寄せられるように立ち寄り、通り抜けられる、道としての商店である。ファサードを過剰にオープンにすることで、商店という目的空間と、街の境界をできる限り無にする。商店の境界空間を思考し、多くのバリエーションが発明されることは、街をより豊かにすると思う。
<山口陽登+大坪良樹/YAP>
所在地 | 福岡県福岡市中央区 |
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用途 | 立ち飲みスタンド |
構造・規模 | RC造 地上6階建てのうち地上1階部分 |
延床面積 | 93.65㎡ |
掲載 | 商店建築 2022年5月号 |
TEAM |
施工:ナミカワ工房 照明:大光電機 スチール:bowlpond |
PHOTO | YASHIRO PHOTO OFFICE |