桜並木の遊歩道と倉庫の街をつなぐピロティ
アルミを始めとする金属製品を扱う企業の倉庫とオフィスの増築計画。中部地域の物流の拠点として昭和50年から40年以上機能してきたが、倉庫が手狭になってきたこと、オフィスが老朽化したことなどから、 増築をすることになった。
敷地の裏側の五条川には美しい桜並木が連なる全長20kmの遊歩道、尾北自然歩道が広がっている。周辺の建物に目を向けると、工業と物流の合理性によって生まれた切妻屋根が五条川の自然のラインによって、不合理に切り取られ、変形の切妻屋根の風景として存在している。多くの建物がこの五条川と桜並木に背を向けている。 モノと車のスケールでできた町であり、そこで働く人々にとって、決して居心地の良い場所として設計されているわけではないように感じられた。
工業・物流と自然・人をつなぐためのボリュームスタディを始めた。1Fは既存の倉庫を増床し、五条川からの北西の風が通り抜けるように大きな開口を開けた。オフィスを2Fに配置することで倉庫の街と桜並木をつなげるピロティが生まれた。オフィスを訪れる人は川側に回り込んで、桜並木を楽しみながら建物にアプローチする。1Fと2Fのギャップによって生まれた高さ6.5mのピロティは、樹木の高さ・スケールと一致し、道路側からでも桜並木に向かって視線が抜けるように考慮した。
2Fのオフィスは、切妻屋根を連続させる構成とした。住宅のようなスケールの切妻屋根と天井は、垂直方向への伸びやかさと水平方向への広がり、眼下に広がる桜並木とのつながりを生み出す。廊下から食堂、会議室、事務室、応接室という一連の部屋のつながりが回遊性を生み出すとともに、五条川・桜並木に対しても大きくひらかれていることに気づかせてくれる。最後に4連の切妻屋根を変形敷地のラインで切り落とすことで、変形した切妻屋根が倉庫の街と桜並木に向かって生まれ、ユーモラスなファサードが街に顔を出す。
新しい建築を建てることで、そこにある街と自然の関係性を結び直す。持続的な街の風景を生み出すための第一歩となる建築を目指した。
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構造形式は短手方向をラーメン構造、長手方向をブレース構造としており、柱にはH型鋼を採用している。要求されている階高が1階と2階で大きく異なるため、2階から柱サイズを絞り平面計画に支障が出ないよう配慮している。
10.2m跳ね出しているオフィスゾーンを支持するために設けている柱はピロティで現しとなるためサイズが大きくなってしまうとピロティの印象に与える影響が大きい。水平力を負担する耐震要素は倉庫ゾーンに集約し、柱は鉛直方向のみを支持する部材としてφ216.3mmに抑えている。家形の連なる形状をした屋根のスラスト力を処理するために、壁の存在する箇所は開き止めの部材を設けている。
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工業・物流の街と自然・人をつなぐ建物において、マテリアルも重要な役割を担うと考えた。アルミをはじめとする金属製品を扱う企業の建物のインターフェイスとして、アルミスパンドレルの外壁と軒天井、アルミを押し出し型材のウッドデッキ、アルミエキスパンドメタルの天井など、物流の主人公である自社の製品を多用した。一方、2Fオフィスでは不燃処理された木質の天井やフローリングを使用し、人と自然に寄り添うインテリア空間を生み出した。そのほかにも存在感を緩和するアルミの照明カバーや光を鈍く反射させるアルミの内壁など、近隣の工場と協力しながら、工業と物流の街に建つ建物らしいプロダクトや仕上げをいくつか試行した。
所在地 | 愛知県丹羽郡 |
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用途 | 倉庫+事務所 |
構造・規模 | S造 地上2階建て |
建築面積 | 1,154.21㎡(うち増築部分:343.13㎡) |
延床面積 | 1,802.89㎡(うち増築部分:598.20㎡) |
敷地面積 | 1,661.56㎡ |
共同設計 | 白須寛規/design SU |
TEAM |
構造設計:満田衛資構造計画研究所 特注照明:大光電機 施工:足立工務店 |
掲載 | GA JAPAN 176 |
受賞 | 2020年 グッドデザイン賞 |
PHOTO |
1-35 / KENTA HASEGAWA 36-37 / YAP |