界壁をファサードとして再定義する
大阪・鶴橋に建つ築103年の二軒長屋の一軒を立ち寄り場にコンバージョンするプロジェクトである。元は3軒長屋だったが、北側が切り離し解体されたため、現在は2軒長屋でその北側1軒である。婦人服の縫製を生業としていた店主とその家族が、1Fを工房、2Fを住宅として利用して、長年、職住一体の生活を営んでいた。しかし高齢を理由に周辺のマンションに移り住み、この建築は空き家化した。
この長屋が建つ、一条通中央商店会は大阪メトロ千日前線の鶴橋駅と今里駅の中間地点から南に向かい、近鉄奈良線を越えて南に広がる約300mの商店街である。周辺は「猪飼野(いかいの)」と呼ばれる地域で、かつては農村地帯だったが、1920〜1930年代にかけて急速に市街化し、戦後、朝鮮半島からの在日コリアンがこの地に定着した。JR環状線、近鉄奈良線、地下鉄千日前線が乗り入れる「鶴橋駅」から徒歩11分程度のエリアに位置している。現在は住居としての性質が強いが、街灯がそのまま残り商店街としての面影をとどめている。
この建物を購入した私たちは、高齢化・空き家化が進むこの地域で、地域の様々な人々が使用できる、明確な機能を持たない「立ち寄り場」へと生み変え、自発的に公共空間を生み出すことにした。
北側の長屋の切り離し工事が行われたのは、約10年前である。築90年を越え老朽化が進でいるため、更地にして土地としての流通を目指したが叶わず、駐車場+物入として10年以上暫定的に利用され、現在に至っている。切り離しによって顕わになった界壁を、廉価な板金を使用して「仮」に塞ぐ手法は、大阪の至る所で見られる。新築の住宅が建ち、いずれ見えなくなる前提だからである。人口拡大社会においては、新たに生まれた土地に建物が建つ可能性が高く、一定の合理性があるが、この建築の界壁は、少なくとも10年以上に渡り「トマソン的な性格」を帯びながら、都市の風景に参加している。この状況を批判的に見て、界壁を新たなファサードとして再定義し、その設計を通して、都市の風景を好転させたい。
改修前の1Fは道路側を工房として利用しており、すでに公共的な性格を帯びていた。北側には屋内の廊下があり、2Fの住宅部分への動線として機能していた。その性格を残したまま、北側の外壁である界壁を柱を残して解体し、半屋外空間に再設計した。大型スチールサッシを全て開放すると1Fは外部化する。前面道路、北側隣地、立ち寄り場の1Fは一体化され、北側隣地は前庭としての性格を帯び始める。
改修前の2Fは、襖で3部屋に仕切られており、北側は押し入れであった。新たに穿たれたファサードに呼応するように、この押し入れを解体し、回遊できるギャラリーへと改修した。明確な機能を持たない2Fは、北側から光を取り入れるための光だまりと、通風のための換気空間として機能する。1Fと2Fを接続する吹き抜けによって、光と風は館全体を回遊する。うなぎの寝床型の奥に長い長屋の断面を露出させることで、誰も見たことがない、しかし確かに存在する内部のアクティビティをファサード化する。
空き家を用途を変えずに、「住宅」に改修している限り、空き家問題が好転することはない。引っ越しを通して新たな空き家を生み出す行為に過ぎないからである。住宅以外の機能に改修することでしか、「長屋・空き家の再資源化」は起こり得ない。その視点に立ち、長屋・空き家の改修方法を発明し続けることを使命に、YAPTOWNプロジェクトを継続していきたい。
| 所在地 | 大阪市生野区 |
|---|---|
| 用途 | ショールーム+コワーキングスペース+立ち寄り場 |
| 構造・規模 | 木造 地上2階建て |
| 建築面積 | 43.91㎡ |
| 延床面積 | 81.64㎡ |
| 敷地面積 | 47.27㎡ |
| TEAM |
構造アドバイス:海野構造研究所
施工協力:豊城ウェルハウス 施工協力:大阪公立大学建築デザイン研究室 |
| PHOTO | KENTA HASEGAWA |