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ウェルカミングな京町家

伝統的な京町家をパンとコーヒーの楽しめる飲食店にリノベーションする計画である。
京町家は一般的に、商人や職人の住まいである。対象の京町家は、2階のガラス窓や周辺の街区の履歴から、大正時代初期に建てられた、築100年程度の京町家である。江戸時代の間口課税の影響で、間口が狭く、奥行きが深い敷地の特徴を受け継いでいる、いわゆるうなぎの寝床である。私たちが訪れた時には、すでに何度か店舗へのリノベーションが行われ、その後スケルトンになっていた。造作としての住まいの痕跡はすでになかったが、ミセ/トオリドマ/ゲンカン/オクノマ/坪庭といった、骨格としての住まいの痕跡は残っていた。

敷地は、錦市場に程近く、車通りや人通りも多い蛸薬師通である。道から京町家の中に入る。奥に進むにつれ、都会の喧騒から徐々に遠ざかる。奥の坪庭に近づくにつれ、明るく、静かになっていく。この奥行き方向の、音と光のグラデーショナルな空間体験は、京町家らしくとても好ましい。その豊かな内部空間の体験に反して、うなぎの寝床のファサードはそっけない。飲食店にリノベーションする上で、長さを生かした奥行き方向の豊かな空間体験を保存したまま、ウェルカムで歓迎的な空気感を醸し出す飲食店に産み変えることはできないだろうかと考えた。

蛸薬師通りに面した1Fのファサードには、耐震壁を残してできる限り大きな開口を開けた。さらに仮想の「ミチ」を引き込む。2層分の吹き抜け空間である。そのミチに面して、1Fはキッチンを、2Fは奥行き方向に長いカウンター席を計画する。京町家の内部に引き込まれた「ミチ」に、長手方向の新たなウェルカミングなファサードをインストールする。通りから内部に入ると視線が2Fへと自然と向かう。1F奥へと引き込まれ、Uターンして階段を登り、2Fへと辿り着き、また、坪庭方向に視線が向かう。長手方向に広がる音と光のグラデーショナルな空間体験を、できる限り長く、立体的に生み出すことを意図した。

既存の土壁は状態が良好であったためできる限り保存したが、耐震壁として新たに設置したPBによる耐震壁の仕上げはアルミホイルのシワ貼りとした。かつて有機的で手仕事的に仕上げられた土壁に対して、無機的だが手仕事的に仕上げられるアルミホイルのシワ貼は、対比的でかつ親和的である。パン売り場のカウンターには、パンの原料になっている麦芽粕を燃やした灰を利用した灰釉による特注タイルを使用した。こんがり焼き上がったタイルの色はパンを引き立たせる。新/旧/有機/無機の素材が混じりあい、京町家の時間の体積を多角的に見せてくれる仕上げの群れとなることを意図した。

短手方向の視線の交差、ジグザグと長手方向を立体的に往復する体験は、これまでの京町家になかった空間体験である。大阪を拠点とするYAPにとって、ややそっけなく感じた京町家を、ウェルカミングでパブリックな存在に生み変える試みである。

(山口陽登+福田絢華+伊賀正隼)

所在地 京都市中京区
用途 ベーカリーカフェ
構造・規模 木造 地上2階建て
建築面積 53.98㎡
延床面積 84.43㎡
敷地面積 74.50㎡
TEAM 構造アドバイス:海野構造研究所
施工:いまむら工務店
PHOTO Sota Nishitani
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