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空間特性を引き継ぎ、転用する

小さなビル「上町荘」の1Fを自身の設計事務所へとコンバージョンした。上町荘は交差点に放り出されるように角地に位置しているシェアスペースである。周辺は長屋が多く残る下町で、人も車も自転車も通行量がとても多い。元々は倉庫として使われていて、物品と軽トラを出し入れするために約9mの開口で大きく街に開かれていた。

設計事務所はビルの2Fや3Fに位置することが多い。しかし、1F倉庫のために設えられた、この大きな開口を利用して、設計事務所の内部の風景を、まちに向かって放り出してみてはどうかと考えた。元の用途が持つ空間特性を、新しい用途でも積極的に引き継ぎ、転用する。設計事務所が、まちと人、人と人とのコミュニケーションをつなぐ場所、まちをつくるための「ラボ」となることを意図した。

様々な実験の風景とその結果生まれた空間を、街に向かって継続的に発信・表現している。まずはじめに模型の収納スペースをコンクリートの壁で作った。上町荘は鉄骨造で剥き出し、木材はホームセンターでいつでも手に入る。RC造の建物を設計することもあるのだから、コンクリートが常に目に入っていて欲しいと思った。型枠は自分たちが扱えるベニヤと木の角材で組み、コンクリートは人力で練った。一般的に見て美しいとは言えないジャンカ、コールドジョイントも自分たちで打って、愛でるように磨くと水墨画のような趣が生まれ悪くない。型枠はスペースを形成する反対側の壁に再利用した。

室内外をつなぐ平板の床は、25cm角の型枠を組んでモルタルで製作した。モルタルの硬い表情を少しでも柔らかくできないかと思い、固まる前に厚めのトレーシングペーパーをクシャクシャにしてスタンプし、固まった後にタワシで擦り落とした。約200枚の全く異なる表情の平板ブロック。室内のモルタル床は外部建具を超えて敷地境界線ギリギリまで延長され、全面開放すると、ワークスペースと下町が同化する。

天井はヴォールト天井である。道ゆく人が見上げたくなる天井を作りたかった。ラワンベニヤをヴォールトの円周ちょうどのサイズに切り、上町荘の構造体であるH型鋼の梁のフランジに強い力をかけて引っ掛け、せーのでパーンと離すと圧縮され自前のヴォールト天井が完成する。

また、スタッフもアルバイトも含めて大きな机で作業する風景を街から見えるようにしたいと考えた。また一般的な机の角の4つの脚がどうも不自由に感じて、できる限りフレキシブルに使いたいと考えた。1.5m×4.7mの大机の脚は、繊維方向を合わせて圧着し、曲がりやすく加工されたベニヤ(曲げベニヤ)をくるんと曲げて、無造作に配置し、天板を載せているだけの作りである。パソコンや本など荷重がかかるあたりに曲げベニヤ製の脚を配置する。机の上の重いものが移動されれば、机の脚も移動する。

街と接する外部建具はできる限り薄く軽く作った。幸いにして、スペースには鉄製のシャッターが備え付けてあり、セキュリティはこのシャッターが担ってくれる。であれば、日中の境界はでき得る限り薄く軽く作ることができる。ガラスは怖くてどうしても自分たちの手で扱えないような気がしたので、厚手のビニールシートを木製建具の枠にピンと張って固定した。風が吹くと揺らぎ、外を走る車の音は常に耳に入り、外部で仕事をしているような感覚になる。4枚建具のうち一枚は、少しだけ換気ができるよう、また、将来コーヒースタンドなども開きたいとの思いから、腰から上に引き違いの既製品のアルミサッシを設置した。建具の中に建具を嵌め込むことで、大きい建具ごと開けることも、小さな窓だけ開けることも選択できるようになる。境界線のありようを、いくつか選択できるようにした。

その他にも、道から見て奥の本棚の扉は溶融亜鉛メッキの鋼板で、できるだけ光を反射するように考えたり、洗面ボウルはポリエステル樹脂を固めたブロックを組み合わせて作成したり、フェルト生地に賞味期限が切れた赤ワインでピンク色に染めた床を作ったり、幅広のマスキングテープをベニヤに貼って、木目が透けて見える黄色の床を作ったり、機能や使い勝手を一旦キャンセルしながら、素材の特性を知り、学びを得るための実験を繰り返している。これらは自分たちのスペースが題材でないとできないと考えたからである。

 

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商店建築 2021年4月号

所在地 大阪府大阪市中央区
用途 事務所
構造・規模 S造 地上3階建てのうち1階部分
延床面積 49.37㎡
TEAM 施工:YAP+舩橋工務店
掲載 商店建築 2021年4月号
出展 2019年 住まいをデザインする顔-関西若手の仕事
2019年 Busan Architecture Festival 2019
PHOTO KENJI TOGO
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大阪市立大学工学部 応用化学+バイオ工学 実験室棟 

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