リノベの聖地にて

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リノベの聖地にて

CCA北九州 建築ワークショップ2015 公開レクチャー レビュー
新建築 2015年11月号

現代美術センター CCA北九州にて行われた建築ワークショップ。今年のテーマは「八幡駅前地区」。北九州の八幡駅前は、村野藤吾設計による福岡ひ びき信用金庫、八幡市民会館、北九州市立八幡図書館などが狭い範囲でひしめき合う希少な街だが、建築後40~60年経過し、解体・保存・活用の岐路に立たされている。そこで行われたふたつ の公開レクチャーについてレポートしたい。

公開レクチャーは毎年、建築ワークショップの一環として行われ、市民に広く開かれている。今回は八幡駅前地区がテーマのため、建物の「保存・活用」が焦点となり、8月29日には構造エンジニアの金田充弘氏を、8月31日には建築史家の五十嵐太郎 氏をそれぞれ迎えて行われた。関わってきたリノベーション作品をエンジニアの視点から語り尽くす金田氏のレクチャーでは「技術的にリノベーションできない建築はない」「何のためにリノベーションするのかが重要」という言葉が印象的だった。宮本佳明氏、曽我部昌史氏、小川次郎氏が加わったディスカッションでは、新病院の建設に伴い、保存・活用が危ぶまれている八幡市民会館に話がおよび、ホールから別の機能へコンバージョンする可能性もリアリティを持って語られた。また、五十嵐太郎氏によるレクチャーでは、八幡の街や市民会館の未来を最大限開く、刺激的なリノベーションやコンバージョンの事例が紹介された。その後八幡市民会館の有効活用に向けて活動を続ける宮本佳明氏によるモデレートのもと、倉方俊輔氏、笠原一人氏が加わり、3人の歴史家による鼎談へと移行する。村野建築の価値、八幡という街の価値が堰を切ったように語られた。倉方氏、笠原氏は建築史家、研究者の視点から村野建築の価値を、より高い解像度で繊細に語った。このように蒼々たる建築関係者が「いてもたってもいられない」状態を生み出した北九州・八幡という街は、それだけで奇跡的な街だ。八幡製鉄所に勤務し、八幡の町にいくつもの名建築を産み落とした村野藤吾が、時を超えてこのような状況を作ったと思うと感慨深い。

最近、「北九州はリノベの聖地」という言葉をSNSで見かけた。小倉で始まったリノベーションスクー ルの活動を中心に、たくさんの名もなき建築群が有効活用されているからだ。一方、公共建築は八幡市民会館しかり、大きく出遅れている印象だ。名もなき建築だけでなく、名がある公共建築がリノベーション、コンバージョンされ有効活用された時、北九州は真の意味でリノベの聖地になるだろう。それは簡単なことではない。しかし、その難しさとは裏腹に、レクチャーを聞いた市民のほとんどは「残すべきだ」どころか「残るのが自然」と感じたはずだ。なぜなら、公開レクチャーで語られたのは、エンジニア・建築史家・建築家などによる、経験と研究に裏付けされたきわめてリアリティのある言葉ばかりだったからだ。八幡製鉄所の世界遺産決定に沸く街が、その周縁に広がる価値に気づくことができるか、北九州にとっては大きなチャンスである。

(山口陽登)

リノベの聖地にて

切実さとアンビルドの間で

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