2階の設計
渋谷のスクランブル交差点から道玄坂を登り、しばらくすると出会う商店街「しぶや百軒店(ひゃっけんだな)」。その入り口近くに計画された、クラフトビールの立ち飲みスタンドである。この商店街の歴史は古い。1923年の関東大震災で被災した下町の有名店を誘致する土地として、震災直後に造成・開発。その後1945年の東京大空襲により一体は全焼したが復興し、飲食店だけでなく劇場や風俗店など形を変えて、今も残り続けている。
対象建物は坂道に面していて、間口5.4m奥行き3.0〜4.2m、ワンフロア17.28㎡、地下1階、地上4階建てのいわゆるミニビルであった。階段が平面の40%ほどを占めている。周辺の建築を見渡してみると、1Fは飲食店や風俗の無料案内所など、開かれた設えがなされている一方、2F以上はスナックや事務所など、クローズドな機能が多く人々の営みは見えない。1Fと2F以上の空中階で、空間の使われ方も、賃料も、街に対する構えも、何もかもが異なる、まるで別の仕組みで構成された別の街のようである。2Fが開かれたら、商店街の雰囲気をガラリと変えることができるかもしれない。そんなことを考えながらスタディを開始した。
ワンフロアが小さいので、厨房とメインの客席は1Fと2Fに分けて計画する。店員さんの顔が見えるように、クラフトビールのタップを含む厨房とカウンターを1Fに計画し、必然的にメインの客席が2Fに計画された。クラフトビールの樽が保管される冷蔵庫は、通常タップ付近に計画されるが、極小ミニビル故、1Fにそのスペースの余裕はなく、3Fに計画。3Fから2Fをスルーして、1Fのタップから重力を利用してビールが注がれる。
タイル張りALC版の外壁にカッターを入れ、1Fと2Fが連続するようにW3.8m×H4.6mの大きな開口を開けた。既存の鉄骨梁とALCを支えている二次部材に溶接して鉄骨の腕を出し、物流倉庫の搬入口のような大きなスチール建具を設置する。外壁よりも外側に吊りレールと戸車が設置され、この大きなスチール建具が、渋谷の街と極小ミニビルの間でバグを起こす。面材はハーフミラーのフィルムを貼った5mm厚のポリカーボネート板とし、昼は周囲の雑多な風景を反射し街に擬態し、夜は照明によって店内の様子が浮かび上がる外観とした。防火性能と防犯性能を担うシャッターは室内側に設置した。
2Fでは、既存の床と梁からはしご状の柱を立て、45mm角の角パイプを2本水平方向に溶接した。架けられた橋にラワンベニヤを留めつけ、無柱のカウンターを作った。百軒店の喧騒を見渡す、街と一体化するカウンターである。道ゆく人が見上げると、2Fでクラフトビールを嗜むお客さんと自然と視線が交差する。坂道であることも手伝い、2Fが道路の一部になったような、2Fに道路が入り込んでくるような感覚を生み出す。2Fを開くことで百軒店になかった新しいオープンネスを生み出し、この街の潜在的な公共性を可視化する。
私たちが路面店を設計するときに、最も意識するのは、街に対しての構え方である。新しいバウンダリの設計。開かれた場の設計は今日的なテーマであるが、その上で路面店の設計は最も重要な実践の場であると言える。横長に開く、縦長に開く、奥行きを扱う、など建築と街の境目について、建築家はもっと多くの実験を行わなければならない。その意味で、スタンドうみねこSiB100の2Fまで含めたバウンダリの設計には重要な意味があると考えている。
所在地 | 東京都渋谷区道玄坂2-16-2 |
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用途 | 立ち飲みスタンド+事務所 |
構造・規模 | S造 地下1階 地上4階建て |
延床面積 | 86.4m2 |
掲載 |
新建築 2024年7月号 商店建築 2024年7月号 |
TEAM |
外部建具構造アドバイス:海野構造研究所 施工:ダブルボックス 照明:大光電機 スチール:bowlpond 一部施工:YAP ネオンサイン:MAVERICK 運営:株式会社シクロ |
PHOTO | KENTA HASEGAWA |
MOVIE | Sota Nishitani |